2011年
「銀の匙」は2011年の物語なのだけれど、今回初めて、募金箱という形で震災に触れている。
あの、日本中が何かできないかと焦り、なにがしかを行って己の罪悪感を慰めていた頃。
2011年の日付をたどりながら、荒川弘はしかし漫画家としてはその影響力を行使しなかった。
そして、物語内で半年、リアル世界で1年半が過ぎ、世間の焦燥が薄れたころ。
初めて、本当にさりげなく、この募金箱で震災に触れた。
このコマはとても「よくある景色」 。
だから、震災も、海外の飢饉や災害も、等しく悲劇だが等しく他人事であるのだ、という事実を改めて感じ ました。
逃げないこと、一時の感傷に酔わないこと。
個人の思いとは関係なく世界は流れているということを知り、けれどそれに抗う心は無くさないこと。
銀の匙で描かれていることは、作品そのものもまた体現している。
銀の匙は、漫画家による震災復興応援企画ヒーローズカムバックで唯一、連載中の、「今」の作品。
何故なら荒川弘の代表作が他社版権だから。
でも私は、それは銀の匙が2011年の物語だからだ、と、そうも思っている。