寝言は寝てから

荒川弘ファンのてきとうなおしゃべり。

漫画的キャラ

南九条あやめは、よくできたキャラだと思う。

編集さんからヒロイン出しましょうよと(ヒロインのライバルを、だったかも)言われて、えーこれ以上キャラ増やすの?と作者が思いながら生んだキャラ。

お馬鹿な田舎のお嬢様。

登場一発目で読者に「憎めない」と思わせることに成功した。

彼女は常磐の女版。

そして八軒兄と大川先輩に次ぐ、作品に漫画的メリハリをもたらすキャラだ。

造形としてはタマ子や校長のほうが漫画的。

でも二人はもっともなことを話しもっともな行動をとる。

馬のマロン号と同じに、姿は特徴的でも存在は常道だ。

八軒兄が登場したときは驚いた。

東大を蹴ってラーメン屋とか、どんだけ漫画的設定盛ったんだ?!と。

銀の匙はそういった漫画的設定を極力避ける方針だと思っていたので、八軒と家庭の間のキーパーソンになりそうな位置に、そんなに「ふざけた」キャラを置くのかと、その意図は何だろうと。

真面目な八軒に全く指針とならない兄を置いて、確かに八軒は自力で成長するしかないことが明確になったけど、さて、この真面目な物語において、彼の設定の意味は、その結論はどこだろう?

しかし八軒兄の行動は、物語のリズムを変えた。

彼のようにカラっと明るく破天荒なキャラは、真面目な八軒と真面目なアキと真面目な駒場では作り出すのが難しい、物語のメリハリ、明るさ、元気を容易に生む。

彼のような強いキャラは、物語を運ぶのにとても便利だ。

私はだから、大川先輩はあんなキャラになったのだと思う。

最初はマトモだった大川先輩。彼がおかしくなったのは多分に八軒兄の影響です。

強いキャラがいると、八軒に大袈裟な振る舞いをさせる頻度が減らせる。すると八軒の内面の変化をより丁寧に描けるようになる。

いつまでも酪農トリビアで八軒を驚かせてもいられないし、馬術部ではマスコット常磐もいない。

そうして大川先輩は便利な「漫画的」キャラに昇格することになった。

そしてあやめちゃんだ。

最初からぶっ飛んだキャラで出し、物語に明るさとメリハリをもたらす。

彼女をして駒場農場の倒産を語らせたのは、すごい技だと思った。

漫画的設定のあやめだからこそ、きつい台詞は漫画空間の中でだけ響き、読者を必要以上に傷つけない。

そして今週号。

大川とあやめの登場は、駒場の重さを中和するため。

両者とも、という点がより一層、駒場の再登場は作者的にも重要なことだったのだなと、できるだけさらっと、さり気無く、この場面を進めたかったのだなと、そう感じさせた。

あやめは駒場に唯一、きつい台詞を投げるキャラで、その点もとても興味深かった。

気の毒にとか何とか助けてやりたいとか、そういう常識的感情に物語を染めない。

銀の匙という誠実な物語の中で、元気に常識を破る漫画的キャラたち。

彼ら彼女らを見ていると、作品がよりおもしろくなるのです。