寝言は寝てから

荒川弘ファンのてきとうなおしゃべり。

「宗教と現代がわかる本2015」の銀の匙SilverSpoonの書評が面白い!

宗教とか別に興味無いんだけど、銀の匙が取り上げられているという理由で購入。

これが、大正解!

Amazon 「宗教と現代がわかる本2015」

特集が「マンガと宗教」 

宗教のことがよくわかるマンガを100作品以上紹介だそう。

書店で見ると表紙のセンスの無さに尻込みすると思うけど、カバーなんで捨ててください。

中身はこちら。

ふふふ。文章がぎりぎり読める解像度。

私なんかもそうだけど、これ目を凝らして読んじゃう人、そんで、ん?これ面白そう、って感じた人は、ぜひどうぞ~♪

第一特集は井上雄彦さんの対談。メインテーマはバガボンド

作品の話から発展し、信じる宗教ではなく感じる宗教、場の宗教が日本の宗教感性の原型、とか、人類という種は過剰な心のエネルギーを獲得してしまい、それとどう付き合うかは永遠のテーマであり、アートと宗教が生まれた、とか、大変に興味深いお話でした。

が、私は荒川弘ファンなので、その辺はほうほう、ふんふん、と読み進め、目的の鼎談に進みます。

マンガ好きの仏教徒ムスリムクリスチャン(みんな日本人)が、気になる1冊を紹介して話す企画。

住職さんが挙げたのは『お慕い申し上げます』。

って、エロマンガやん!

ムスリムの先生は『銀の匙』。

って、豚食っとるやん!

クリスチャンの編集さんは『20世紀少年』。

って、テロやん!

と突っ込みたいところですが話は大真面目です。

あるいは、和気藹々とした漫画好き同士のおしゃべりを、真面目な体裁で整えたのかもしれませんが、それぞれ宗教=人とは何かをつきつめて考えること、を生業に選ばれた皆さんですので、内容は非常に深く、的確で、また意外性がありました。

要点は三つ。

1.あるがままの姿をうけいれるエゾノーは理想(現代日本の息苦しさに対して)

2.壁としての父親(各々の宗教の家族像と対比して)

3.生きるということについて、文字化できないところまで、わかりやすく描かれている。

イスラムでは「良いことも悪いこともすべて神様が決めた運命として受け入れていくしかない」

どんな不幸な出来事も長い目で見たら良い経験となるかもしれない。だからこそ「人生の一瞬一瞬は神様からの贈り物」

ムスリムの先生は『銀の匙』はその感覚を描いている、と感じたそう。

「いまの子ども世代って、個性が大事とか、自分たちの好きなように生きなさい(中略)と言われるわりには決められたレールを素直に走らなければいけない状況にあるように思うんです。『そんなことはないよ!』というメッセージを漫画という表現方法で描いているのが非常に興味深いですね」

「学園マンガといえば、恋愛か不良のケンカかスポーツか。いずれにしても友情、努力、勝利(中略)皆がそれぞれ好き勝手に自分のやりたいことをやりましょうというのはなかったんじゃないかな」

「才能というのは神様が与えたものなんです。だから、その才能に気付いて伸ばすことが大切」「今の日本だと、頑張ればできる、努力しろ、って言い続けるだけで、努力してもどうしようもないこともあるという事を認めきれない部分が多々あると思います」

「すべての才能は神様からの贈り物で、自分にはこの才能がなかった、じゃ、何ができるんだろう?というのでまた別の世界を目指すわけです」

などなど。

才能がないならないであきらめる、というのはグローバルスタンダードでは?というムスリムの先生の話に対し、キリスト教誌の編集さんも

「(エゾノーの)べつに勉強ができたから偉いということはまったくないというのはキリスト教的」

「『与えられた賜物』とキリスト教では言いますけど、それぞれに与えられた使命と役割と生きる意味があるはずだというのが前提にあって、基本的に無駄な命はひとつもない」

とおっしゃってました。

またこの方は元は小学校教諭なので、エゾノーの先生と生徒の対等性を挙げていて、

「『教師』の役割はしているけど、そこに上下関係は生まれていない気がします」

「自分が教育して正しく導かなければいけない!という暑苦しいだけの熱血教師がいないんです。そのゆるさがいまの社会には必要なのかなと」

仏教の住職さんは「寮から離れるときに『束縛があって、ほんとはいやだった』とか言っていて、(中略)そういういろんな価値観が2,3ページの中でちゃんと描かれていたので、リアルだなと思いました」

また、住職さんの「いただきます」をきちんと描いているという話から、クリスチャンさんが

「いろんなことが読むだけで感覚的にわかる。あと現代でないがしろになされている大事な部分、文字化できないようなことがふんだんに入っていて、しかもギャグとしてもちゃんとおもしろい」

と話しておられました。

このねえ。文字(知識)とともに、「文字化できないこと」も表せる、っていうのは、漫画のほんとうにすごいところだと思います。

住職さんは家族像をテーマに挙げられ、八軒の父親像は「禅仏教の強固な師弟関係そのもの」と捉えておられます。

ここはそれぞれの宗教における家族像を銀の匙に見る、という感じで、銀匙を知るというより宗教を知るという感じでおもしろかったです。

駒場についてはムスリムにって家族は何よりも大切なものなので(中略)自分を犠牲にして家族のために尽くすというのはイスラムの家族観に近い感じがする」

キリスト教「戒めとして父母を敬えというのがしっかりあって、その親を敬うことの延長線上に神に対する絶対服従があります」「キリスト教では『父なる神』ですから(中略)父の言うことは絶対。妻は、それに従う」

「絶対服従に対する反発心はもちろんあって、八軒みたいな感じの牧師家庭っていっぱいあると思うんです」

ここで、牧師は家の外では「先生」だし絶対服従だしで、家庭を顧みない牧師家庭では妻が病んだり息子がグレたりとかよくある、とぶっちゃけてるのがおもしろかった。

日本ではキリスト教ってオシャレなイメージだから圧倒的に女性が多いんだけど、そーいやキリスト教もむっちゃ男尊女卑。エバはアダムの骨から作られたんだもんねえ。

女は不浄な神道にしろ、妻帯禁止の仏教にしろ、女は、男=マン=人間では無い。

この本一冊とっても、写真入りの記事が、対談・インタビュー・鼎談×2とあるんですが、その10人が全員男性。

やっぱり、宗教って男のものなのねえ。

でも、じゃあ彩りに若い女の子のゲストを呼ぼう、みたいな俗っぽさが無いので、そこはすごくイイなって思いました!

ところで、古代のシャーマンは女性優位だったけど社会に権力構造ができていく過程で男性優位になってった、って話を私は以前、上野千鶴子さんの本で読んで、すごい良く分かって長年のモヤモヤがスッキリして元気になったので、モヤモヤしてる方にお勧めでーす!

えーと、話を戻しまして。

住職さん。「要は、壁をちゃんと設定できるかどうか。八軒にとって一つ目の壁は学歴社会なんですが、その壁だけではなくてもう一つ違う価値観の壁をちゃんと設定してあげて、そこを乗り越えられるかどうかを問題にするわけです。これは成長の先にある自立の物語なんですよね」

そうそう!

この、二重壁の構成は鋼も同じで、身体を取り戻す、という目に見える壁の向こうに、エドにとって錬金術とは、父とは何か、があって、最後は父への憎しみもアイデンティティーであった錬金術をも手放して、一人の男として自立する。

銀匙はリアルワールドなのでマイルドになっているけど同じ。学歴否定の向こうに、父の属する経済社会、序列社会への疑問があって、エドとアルが新しい錬金術の法則を探す旅に出るように、八軒は新しい何かを探して起業する。

この、第二の壁に「価値観」を置くところが、荒川漫画の強さなんだと思います。

とか持論をぶってしまってすみません!

えー、本の話題に戻ります。

さて、鼎談では、ここで父子の対立というところからエヴァの話が出まして、「逃げちゃダメだ」と「逃げるのはありだ」の対比になります。

逃げちゃダメだのエヴァ大人になれない少年の物語で、逃げるのはありだの銀匙は少年が大人になる物語、という解説は、漫画評などですでに語られているところであります。

そうそう、荒川作品の特長のひとつに「少年が大人になる」というのがありまして。

とか語りだすとまた長くなるんで、こちらをご紹介。

札幌大文化人類学の川村清志氏著「ふたつの“ハガレン” : アニメ「鋼の錬金術師」にみる物語の相補的構造」

札幌大学学術情報リポジトリ

↑リンク先のPDFを開いて読みます。

無印とFAの違いについて。

前半はあらすじ解説なので、話をご存知の方は16ページ4章からでも。

とても面白いのですがちょっと難しいので、気合い入れてどうぞ~v

さて、銀匙については以上です。

ほか、住職さんが持ってきたエロ漫画(こら!)については、仏教は出家したら妻帯ダメないのに日本だけOKだから、気持ちの置き方がすごい難しいってのは『坊主Days』で知ってたけど、各宗教におけるセックスの価値観がいろいろ違って面白かったです。

またクリスチャンさんが持ってきたテロ漫画(こらこら!)については、お持ちになったご本人が、冒頭から1ページ以上の大ボリュームで、宗教とテロリストについて語っておられます。

オウム真理教のテロについて「あんなものと一緒にされては困る的な反応を宗教界はしたと思うんです。でもそんなものは表裏一体であって、それこそイスラム教がテロリストというふうなレッテルを貼られたりするように、われわれ宗教者は、どんな宗教であれ、どんな信仰であれ、一歩間違えればテロリストになりうるわけですよ。(中略)そういう危険性を宗教界がわかったうえで、一般の人たちに、なんで宗教が必要かということを言っていかなきゃいけないんじゃないかなと」

ここ、個人的に非常に感銘を受けました。

宗教でなくても、なんでも。

「あれは私たちとは違う」って言ったらそこで思考停止しちゃう。なんだって、嫌なことだって「あれもまた私たちの内部から出てきたんだ」って認めないと、何も始まらないもの。苦しいけども。

ま、私なんかすぐに、「でもまあ、あれはあれ、コレはコレ」ってラク~な方へ流れてるけどね!(笑)

と、いうわけで、「宗教と現代がわかる本2015」のご紹介でした!

久々に荒川漫画とは何か?を考えるきっかけになって楽しかったです~♪